「荷物そのまま」で売る方法は2つある
親の家を売りたいが、荷物を片付ける時間も体力もない。そんなとき「残置物ありでも買い取ります」という広告が目に入ります。実際に荷物を残したまま売る方法は、大きく2つです。
- 不動産会社に買い取ってもらう(買取) — 業者が自社で購入し、片付け・リフォーム後に転売します。荷物の処分費と利益は買取価格から差し引かれるため、仲介で売るより価格は下がります(一般に市場価格の6〜8割程度と言われますが、物件と地域で大きく変わります)。
- 仲介で「残置物あり」の条件で売る — 買主が荷物ごと引き受ける前提で売り出します。買主が限られ、値引き交渉の材料になりやすい一方、片付け費用と手間はかかりません。
どちらも「荷物を処分する費用を、誰かが価格の中で負担している」点は同じです。無料になるわけではありません。
残置物の処分費はいくらかかるか(目安)
「荷物そのまま」で売るとき、実際にかかる処分費がいくらで、それが価格にどう反映されるかを知っておくと、交渉で損をしにくくなります。
- 費用の目安 — 残置物の処分費は、量と間取りでおおむね数万円〜数十万円が目安です。ワンルームや少量なら数万円、戸建てで家財が多い場合は数十万円になることもあります。あくまで目安で、品目(家電リサイクル対象品、灯油・農薬などの危険物)、搬出の階数やエレベーターの有無、トラックを横付けできる立地かどうかで変わります。
- 費用の決まり方 — 一般に「トラックの台数(積載量)+作業員の人数×作業時間+処分場への持ち込み費用+特殊品目の別料金」で積み上がります。品目と量を見てからでないと正確な額は出ないため、電話一本の概算より現地での見積のほうが信頼できます。
- 価格への転嫁の仕組み — 買取では、業者が負担する処分費・リフォーム費・利益が買取価格から差し引かれます。仲介の「残置物あり」でも、買主は処分費を見込んで値引きを求めます。つまり処分費は誰かが必ず負担しており、多くの場合それは売主が「価格の目減り」という形で負っている、ということです。
処分費を自分で払って片付けてから売るか、価格から引かれる形で業者に任せるかは、後述の数字で比べて決めます。
先に片付けたほうが得になる3つのケース
- 売れる家財がある — 貴金属、着物、骨董、楽器、カメラなどは、買取業者に見てもらえば現金になります。残置物込みで売ると、これらは「ごみ」として価格から引かれるか、業者の利益になります。
- 仲介で売れる立地 — 駅近や人気学区など買主が付きやすい地域では、片付けて内覧できる状態にしたほうが高く早く売れます。片付け費用より価格差のほうが大きいことがよくあります。
- 家族が引き取りたい物がある — 引き渡し後に「あれを取りに行きたい」はできません。写真アルバム、位牌、形見は必ず先に出してください。
逆に、遠方で通えない、建物が古く土地値でしか売れない、家財に価値がない、早く現金化したい場合は、残置物ありの買取が合理的です。
残置物ありで売るとき、必ず決めておくこと
契約書や重要事項説明に、次を書面で残してください。口約束はトラブルの元です。
- 残置物の範囲 — 「建物内の動産一切」なのか、屋外(物置、庭石、車、植木)も含むのか
- 所有権の放棄と処分の承諾 — 売主が残置物の所有権を放棄し、買主が処分することを承諾する条項
- 危険物・特定の物の扱い — 灯油、農薬、ガスボンベ、消火器、バッテリー、仏壇・位牌・遺影は別扱いになることが多い
- 処分費の負担 — 価格に含むのか、別途精算か。別途なら上限額
- 引き渡し前に持ち出す物のリスト — 写真、書類、貴重品、家族が引き取る家財
とくに仏壇・位牌・遺影は、業者側も処分をためらいます。供養(閉眼供養・お焚き上げ)は売主側で済ませておくと引き渡しがスムーズです。
価格の妥当性を見る方法
買取価格を1社だけで決めないでください。次の3つを並べると、判断できます。
- 仲介での査定額(2〜3社) — 「片付けた状態で売るといくらか」の相場
- 片付け業者の見積(2社) — 「片付けにいくらかかるか」
- 残置物ありの買取額(2社) — 「そのまま売るといくらか」
「1 − 2」と「3」を比べれば、片付けてから売るべきかが数字で分かります。仲介の査定額は売れる保証ではないので、売却期間の見込みも聞いてください。
税金と手続きで見落としやすい点
- 名義 — 親名義のままでは売れません。親が存命なら本人の意思確認(判断能力が不十分なら成年後見制度)、亡くなっていれば相続登記が先です。2024年4月から相続登記は義務化され、正当な理由なく原則3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象になり得ます(法務省 相続登記の申請義務化)。
- 譲渡所得税 — 売却益には所得税・住民税がかかります。相続した空き家を売る場合、一定の要件(建築時期、耐震基準または解体、売却期限、売却額など)を満たすと譲渡所得から控除が受けられる特例があります。要件が細かいので、契約前に税理士か税務署で確認してください。
- 契約不適合責任 — 古い家では、雨漏りやシロアリなどの責任範囲を契約で限定するのが一般的です。買取ならこの点は業者側が負うことが多く、安心材料になります。
進め方の順番と、そろえておく準備物
先に手元に用意しておくと、査定や契約がスムーズです。
- 登記事項証明書(または権利証・登記識別情報通知)で名義を確認
- 固定資産税の納税通知書(評価額の把握、譲渡所得の計算に使う)
- 家財の写真一覧(何が残っているか、引き取る物・売れる物の仕分け)
- 危険物・特殊品目(灯油、農薬、ガスボンベ、消火器、バッテリー、仏壇・位牌・遺影)の有無メモ
- 家族が引き取る物・貴重品・書類のリスト
順番は次のとおりです。
- 家族が引き取る物・貴重品・書類を先に出す(家財を写真で棚卸しして一覧にする)
- 仲介査定と残置物ありの買取額を並行して取る
- 売れる家財だけ買取業者に見せる
- 数字を比べて「片付けてから売る」か「そのまま売る」かを決める
- 契約条件(残置物の範囲・処分・持ち出しリスト)を書面にする
売却全体の流れは実家を売る手続きの進め方、家財が多くて手が付かないときは実家の物が多すぎるときの片付け方もあわせて確認してください。
急いでやってはいけないこと
- 残置物の権利関係を確認せず処分する — 家財の中に、他の相続人や家族の所有物、貸与品(レンタル・リース)、故人が誰かから預かっていた物が混ざっていることがあります。勝手に処分すると弁償やトラブルの原因になります。相続がからむ場合は、誰が何を処分してよいかを相続人全員で確認してから進めてください。
- 口約束で買取・処分を頼む — 「あとで精算」「一式で処分」といった口約束は、後から追加請求や「聞いていない」の水掛け論になりがちです。残置物の範囲・処分費・持ち出す物は必ず書面(契約書・重要事項説明)に残します。
- 無許可の回収業者にまとめて渡す — 家庭から出る不用品の回収には、市区町村の一般廃棄物収集運搬業の許可が必要です。無許可業者による不法投棄や高額請求が各地で報告されています。許可番号を確認できる業者を選んでください。
- 仏壇・位牌・遺影を確認せず搬出する — 供養(閉眼供養・お焚き上げ)を済ませないまま処分すると、家族が後悔しやすい部分です。先に段取りしておきましょう。
よくある質問
Q. 残置物ありだと、いくらくらい安くなりますか?
物件と地域で大きく変わるため一概には言えませんが、買取価格は一般に市場価格の6〜8割程度と言われ、そこから処分費・リフォーム費・業者利益が差し引かれます。処分費自体は量と間取りで数万円〜数十万円が目安です(あくまで目安)。1社だけで決めず、仲介査定・片付け見積・残置物ありの買取額を並べて比べてください。
Q. 仏壇や位牌もそのまま置いていけますか?
業者側も処分をためらうことが多く、別扱いになるのが一般的です。閉眼供養やお焚き上げは売主側で済ませておくと引き渡しがスムーズです。詳しくは仏壇を実家じまいで閉じるときを参照してください。
Q. 親が認知症で判断が難しい場合も売れますか?
本人名義の家は家族の一存では売れません。成年後見制度が必要になることがあり、後見人がついても居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が要ります。先に司法書士や地域包括支援センターに相談してください。
Q. 相続した家を売ると税金はかかりますか?
売却益(譲渡所得)には所得税・住民税がかかります。相続した空き家では一定の要件を満たすと控除が受けられる特例があります。要件が細かいので、契約前に税務署・税理士で確認してください。国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」(No.3306)も参考になります。
確認先・参考(一次情報)
税・制度は個別事情で変わります。断定せず、必ず公的窓口や専門家で確認してください。
- 相続空き家の3,000万円特別控除の要件 … 国税庁 No.3306
- 相続登記(2024年4月義務化・原則3年以内) … 法務省 相続登記の申請義務化
- 相続・成年後見などの無料相談 … 法テラス
- 家庭ごみの回収業者の許可 … お住まいの市区町村の公式サイト
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